focus: Hito Steyerl at Art Institute of Chicago

ヒト・シュタイエルによる6つのビデオインスタレーション展。今日きちんと見ることができたのはAdorno’s Grey (2012)、Abstract (2012)、In Free Fall (2010)の3作品だけだが、期間中に是非もう一度行って残りの3作品も見なければと思っている。それほどよかった。ドキュメンタリーとインタビューの手法を用い社会経済構造を考察していく作品は彼女の冷静な批判精神に基づいているが、それだけでなく彼女が非常に純粋な好奇心と探究心をもってテーマに向かっていく姿勢を感じた。

Adorno’s Grey。アドルノが教鞭をとっていたフランクフルト大学の大教室は「集中力を高めるため」に壁が灰色に塗られていた。その後上塗りされた白いペンキを落とし、この灰色の壁を修復しようとする作業の映像。その映像に学生運動のさなか、反権威主義の理論家であったアドルノ自身の権威主義的態度を女子学生が講義中にストリップによって批判したという事件のインタビューが重ねられる。理論は灰色である、というファウストの引用。灰色というモチーフを通じて、学問と実践という今私自身が抱える問題を深く考えさせられた。

Abstractはクルド族の抵抗運動に関わり殺されたシュタイエルの友人アンドレアにまつわる作品群の最新作ということだ。並列された2画面はそれぞれ入れ替わりながらアンドレアが殺された場所と、その兵器をつくりだしたロッキード本社の映像を映し出す。shotとcountershot。出来事の向こう側とこちら側。一方の視点と他方の視点。

In Free Fallはボーイング707航空機をめぐる話。しかしそれを通じて見えてくるのは複雑にグローバル化した世界経済の実態である。旅客用の飛行機がイスラエルに転売され軍事用航空機になること、ある機体はハリウッドの大作映画の大爆発シーンに使われたこと、 こうした人為的な爆発だけでなく事故により墜落した機体も、そのガレキは主に中国に買い取られ、特に再生可能性の高いアルミニウムは何度も何度もリサイクルされ、DVDなどまた商品として生まれ変わり世界中に流通することなど。墜落事故の場面のあとに、アルミニウムは何度でも再生可能というシーンが流れると、「リサイクル」という言葉にこれまで抱いていたイメージががらっと変わってしまう。人の命は一度失われたらそれまでだ。でも機体は、物質は、いくら損傷しようとまたきれいに再生することができる。また経済的利益を生み出すことができる。その現実。

アート・インスティテュートでの展示と同時にニューヨークのe-fluxでもHito Steyerl展が開催中とのことである。